【新作書き下ろし②】守るべき“場所”―(『19番目のカルテ』第14話より)

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今回は新作書き下ろし!
漫画『19番目のカルテ』を読んで、“ドクターG度”検定クイズに挑戦!
あなたは初級? 中級? 上級?

漫画『19番目のカルテ―徳重晃の問診』のドラマ化(TBS系日曜劇場、毎週日曜21時~)を記念し、2021~2022年に掲載された『総合診療』誌での同作関連の連載(全12回)を復刻するに伴い、新たに山中克郎先生が『19番目のカルテ』第14話を読み解き、ご執筆くださいました。

※特設サイトでは、漫画『19番目のカルテ』を期間限定にて無料でお読みいただけ、そのエピソードに因んだ「“ドクターG度”検定」に挑戦できます。自動採点され、正解とミニ解説に加え、同作の主人公・徳重晃先生からのコメントも! 結果は、ぜひSNSでシェアしてみてください。

【今月の出題・解説】徳田安春(臨床研修病院群 プロジェクト群星沖縄研修センター)

まずは漫画の試し読みから!

 特設サイトから『19 番目のカルテ』第14話「守るべき“場所”」を読もう!(第14話は右端にあります) 
読んだら、以下の「“ドクターG度”検定」に挑戦しましょう!

 今回のケースは、「脊柱管狭窄症」「Alzheimer型認知症」「葉酸欠乏症」「高血圧性心不全」の多疾患併存(マルチモビディティ)でした。社台(やしろだい)さんのような高齢患者には「マルチモビディティ」が起こりやすく、総合診療医は各疾患について理解を深めることが重要です。以下の“ドクターG度”検定を解いて、それぞれ学んでいきましょう。

“ドクターG度”検定に挑戦しよう

※特設サイトでは、クリック方式で回答いただけ、自動採点のうえ「初級」「中級」「上級」を判定、ミニ解説と『19 番目のカルテ』主人公の徳重晃先生からのコメントをご覧いただけます。

Q1 患者の社台さんは、「脊柱管狭窄症」による下肢症状を疑われていました。この疾患の症状が最も軽快しやすい体位は?

仰向けで膝を伸ばす
起立姿勢を維持する
前かがみになる 
後ろに反る

Q2 社台さんは、病歴・身体所見に加え、MRI画像で海馬の萎縮が認められ、「Alzheimer型認知症」と診断されました。この海馬の萎縮と最も関連が深い病理学的変化は?

脳血管の多発性梗塞
Lewy小体の蓄積
アミロイドβプラークと神経原線維変化 
一般的な炎症性変化

Q3 「Alzheimer型認知症」の治療薬として、2023年にアミロイドβを標的とするモノクローナル抗体製剤レカネマブが承認されました。この薬剤の効果が最も大きいとされる年齢層と、認知機能レベルの組み合わせとして、最も適切なものは

75歳以上;軽度認知障害(MCI) 
60代前半まで;軽度認知障害(MCI) 
75歳以上;軽度認知症 
60代前半まで;中等度認知症

Q4 徳重医師は、社台さんの足のしびれの原因として、「葉酸欠乏症」があると指摘しました。葉酸欠乏が末梢神経障害を引き起こすメカニズムについて、最も適切な記述は?

葉酸がDNA合成に不可欠であるため、神経細胞の再生が阻害される 
高ホモシステイン血症による神経毒性のため、ミエリン鞘の形成不全を引き起こす
ビタミンB12の活性化が阻害され、脊髄が変性する
葉酸が不足すると、神経細胞内のATP産生が低下する

Q5 社台さんの足のむくみは、高血圧による心臓への負担が原因である可能性が示唆されました。「高血圧性心不全」の初期に頻度の高い身体所見のうち、過剰心音として聴取されるのは?

Ⅰ音の亢進 
Ⅱ音の分裂 
Ⅲ音
Ⅳ音

 

深読み解説

Q1
 脊柱管狭窄症による「神経性間欠性跛行」は、起立や歩行により下肢に痛み・しびれ・脱力が生じ、休息により軽快する症状です。特に、前かがみになる体位(前屈位)では、腰椎の椎間板後方突出が軽くなり、脊柱管が広がるため、神経根への圧迫が軽減し、症状が軽快しやすくなります1)

 逆に、後ろに反る体位(後屈位)は脊柱管を狭めるため、症状を悪化させます。この特徴的な体位による症状の変化は、「閉塞性動脈硬化症(血管性跛行)」との重要な鑑別点となります。

前かがみになる

Q2
 Alzheimer型認知症の病理学的特徴は、脳内に蓄積するアミロイドβプラークと、細胞内でタウ蛋白が異常にリン酸化して形成される神経原線維変化です2)。これらの異常な蛋白質の蓄積は、特に記憶の中枢である海馬を始めとする脳の特定の領域の神経細胞を破壊し、結果として脳の萎縮を引き起こします。MRI画像で海馬の萎縮が確認されたことは、これらの病理学的変化が進行していることを示唆する所見です。

 Lewy小体の蓄積は「Lewy小体型認知症」の特徴であり、脳血管の多発性梗塞は「血管性認知症」の主な原因です。

アミロイドβプラークと神経原線維変化

Q3
 レカネマブは、Alzheimer型認知症において脳内に蓄積するアミロイドβを標的とするヒト化モノクローナル抗体製剤です。アミロイドβの蓄積が初期段階である軽度認知障害(MCI)および軽度認知症の患者に対して、病気の進行を遅延させる効果が最も期待できるとされています。年齢層については、60代前半までといった比較的若い患者層でより効果が大きいとする報告もあります3)。これは、病理学的変化が不可逆的に進行する前に介入することの重要性を示唆しています。 

 

60代前半まで;軽度認知障害(MCI) 

Q4
 葉酸は、細胞の増殖やDNA合成に不可欠なビタミンであり、神経系においても特に重要な役割を担っています。また、葉酸欠乏により、アミノ酸代謝経路のメチオニン回路に異常が生じ、ホモシステインがメチオニンに変換されずに血中に蓄積します。この高ホモシステイン血症による神経毒性がミエリン鞘の形成を阻害することで、末梢神経障害をきたします4)

 また、ビタミンB12も同じ代謝経路に関与しているため、葉酸欠乏とビタミンB12欠乏は、神経学的症状を伴う「巨赤芽球性貧血」の鑑別において重要なポイントとなります。

高ホモシステイン血症が神経毒性を示し、ミエリン鞘の形成不全を引き起こす

Q5

 高血圧が持続すると、左心室の圧負荷が高まり、心筋が肥大し、拡張能が低下します。心房が収縮して硬くなった心室に血液を送り込む際、心室壁の振動がⅣ音として聴取されることが増えてきます5)。これは、心房収縮後に生じる過剰心音であり、心室拡張能の低下を反映する身体所見です。Ⅲ音は心不全の進行期に聴取されることが多く、収縮能の低下を反映しています。高血圧性心不全の初期段階では、心筋肥大による拡張能の低下が主であるため、Ⅳ音がより特徴的な所見となります。

 

Ⅳ音

最後に、ウィリアム・オスラー先生の名言として、以下の言葉を引用します。以下は、オスラー先生の言葉です6)

The good physician treats the disease; the great physician treats the patient who has the disease.
(良い医師は病気を治療し、偉大な医師は病気をもつ患者を治療する)

 この言葉は、単に病気を治すだけでなく、患者の心に寄り添い、安心感を与えることの重要性を示しています。社台さんのケースでは、多疾患を抱える患者の身体的苦痛だけでなく、孤独感や認知症に対する不安といった精神的な苦痛にも、医師たちが向き合っています。

 

あなたの“ドクターG度”検定結果は?

0~2 問正解

 
3~4 問正解

 5 問全て正解


文献
1)Genevay S, et al:Clinical classification criteria for neurogenic claudication caused by lumbar spinal stenosis. The N-CLASS criteria. spine j 18(6): 941-947, 2018[PMID: 29031994]
2)Selkoe DJ: Alzheimer's disease; A central role for amyloid. J Neuropathol Exp Neurol 53(5): 438-447, 1994[PMID: 8083687]
3)van Dyck CH, et al: Lecanemab in early Alzheimer's disease. N Engl J Med 388(1): 9-21, 2023[PMID: 36449413]
4)Mandia D, et al:Adolescent-Onset and Adult-Onset Vitamin-Responsive Neurogenetic Diseases;a Review. JAMA Neurol 78(4): 483–490, .2021[PMID: 33427863] 
5)Iriarte M, et al:Congestive heart failure from left ventricular diastolic dysfunction in systemic hypertension. Am J Cardiol 71(4): 308-312, 1993[PMID: 8427173]
6)Silverman ME, et al (ed):The Quotable Osler. American College of Physicians, Philadelphia, 2003

 

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