特別編-Question 4 
被災時・避難時に体調管理に活用できる漢方薬を教えてください(鼻炎)

吉永 亮(飯塚病院東洋医学センター漢方診療科)

 

Answer

被災から2週間が経過すると咳や咽頭痛,鼻汁などのアレルギー症状が増えます。アレルギー性鼻炎による水様性鼻汁には小青竜湯を用います。鼻閉や粘稠な鼻汁が主体のアレルギー性鼻炎には,熱が主体の病態である陽証として越婢加朮湯が適応になります。

 

水様性鼻汁には小青竜湯
小青竜湯(しょうせいりゅうとう;No.19)は,現在改訂中でパブリックコメントが募集されていた『鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―2023年版(改訂第10版)』案にも,「実施することを弱く推奨する」「エビデンスの強さ:B」として記載1)されており,アレルギー性鼻炎に対して広く活用されています。小青竜湯のアレルギー性鼻炎に対するエビデンスとして,全国61施設の耳鼻咽喉科を受診した通年性鼻アレルギー患者220名において,小青竜湯を内服した群ではプラセボ群より全般改善度,くしゃみ発作,鼻汁,鼻閉スコアが有意に優れていたとする二重盲検ランダム化比較試験2)があります。

 

小青竜湯は麻黄湯(まおうとう;No.27)や葛根湯(かっこんとう;No.1)にも含まれる発汗作用のある麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)のほか,体を温める乾姜(かんきょう),細辛(さいしん),鎮咳作用と水分代謝の異常を改善させる半夏(はんげ),五味子(ごみし)などで構成されます()。そのため小青竜湯は体を温めながら,くしゃみや水様性の鼻汁,水様性の喀痰が多い咳嗽を軽減させる作用があり,これらはアレルギー性鼻炎の症状と一致することから同疾患によい適応になります。またアレルギー性鼻炎だけでなく,水様性鼻汁などの鼻炎症状が主体の風邪にも適応になります。
 
図 小青竜湯と麻黄附子細辛湯

 

麻黄附子細辛湯への切り替え,併用も効果的 
色白で普段からむくみやすい人が風邪をひくと,小青竜湯の適応になることが多いと言われます。冷えと全身倦怠感を目標に使用する麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;No.127)にも小青竜湯と同じく麻黄と細辛が含まれており,ともに体を温める作用のある漢方薬です。このことから,水様性鼻汁に対して小青竜湯の効果が不十分な場合や,冷えや全身倦怠感が強い場合には麻黄附子細辛湯に変更するとよいでしょう。また小青竜湯と麻黄附子細辛湯を併用すると効果が増強され,即効性も期待できます。

 

しかし,麻黄の重複のため副作用である胃もたれや動悸,不眠といった症状が現れるおそれがあります。胃が弱い人,高齢者,長期に内服する場合には注意が必要です。また1日3回と定期的に内服するのではなく,症状がひどくなる時間帯に限って内服して麻黄が過量にならないように注意します。麻黄の量を増やさないために小青竜湯とブシ末(No.3023,三和S-01など)を併用することで,小青竜湯+附子(ぶし)となり,麻黄附子細辛湯の構成生薬がすべて含まれることになります()。東日本大震災時における医療活動の報告では,震災後2~4週間は小青竜湯が最も頻用されていました3)

 

さらに瓦礫撤去などの復旧作業を行う人にとって,抗ヒスタミン薬は注意散漫や眠気といった副作用が懸念され,漢方治療で症状の軽減と作業効率の改善を自覚される方が多かったと考察されています3)。反対に,避難所生活では夜間の不眠も問題となるでしょうから,日中は漢方薬,夜間は抗ヒスタミン薬というように時間帯に応じた治療が望ましい場合もあるでしょう。

 

特別編第1回では麻黄附子細辛湯にはカプセル製剤(小太郎NC127)があると紹介しましたが,小青竜湯には錠剤(オースギSG-19T)があります。小青竜湯は酸味が強く,すっぱい味がしますので,飲みづらい場合には錠剤も活用できます。

 

鼻閉や粘稠な鼻汁には越婢加朮湯 
アレルギー性鼻炎であっても水様性鼻汁でなく,鼻閉が主体の場合や粘稠な鼻汁が出る場合は,漢方医学的に熱が主体の病態である陽証として,小青竜湯や麻黄附子細辛湯ではなく,越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう;No.28)を用います。越婢加朮湯には麻黄,石膏(せっこう),朮(じゅつ)が含まれ,熱を冷ましながら浮腫を改善させる清熱利水(せいねつりすい)作用があります。越婢加朮湯は皮膚や関節の紅斑と腫脹をきたす蕁麻疹や関節炎によく用いられますが,アレルギー性鼻炎に対しては,鼻閉=鼻粘膜が熱を伴って腫脹した病態と考えて用います。また鼻閉だけでなく,咽頭痛や鼻・喉などがかゆいと訴える場合には越婢加朮湯が有効なことが多いです。

 

東日本大震災では,震災後2~4週間は津波による土砂などが乾燥して舞い上がり,徐々に気温が上がる花粉症の時期と重なったこともあり,アレルギー症状を呈する患者さんが増えたため,小青竜湯とともに越婢加朮湯も頻用されていました3)。能登半島地震ではまだまだ寒い季節が続くため,小青竜湯や麻黄附子細辛湯の使用頻度が高くなる可能性もありますが,外界の気温,患者さんの体質や鼻炎症状に応じて,漢方薬を使い分けてほしいと思います。

 

■文献
1) 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会:「鼻アレルギー診療ガイドライン2023年版」パブリックコメント募集のお知らせ
2) 馬場駿吉,他:小青竜湯の通年性鼻アレルギーに対する効果―二重盲検比較試験. 耳鼻臨床 88(3):389-405,1995
3) 高山真,他:東日本大震災における東洋医学による医療活動.日東洋医誌 62(5):621-626,2011

 


吉永 亮
飯塚病院東洋医学センター漢方診療科
2004年自治医科大学卒業。飯塚病院で初期研修後,漢方診療科で外来研修を行いながら離島や山間地で地域医療に従事。さらに深く漢方を勉強しようと2013年から現職。総合病院の漢方専門外来・入院治療,大学病院の総合診療科外来,家庭医外来など,さまざまなセッティングで漢方治療を行っています。日々,漢方の可能性を拡げるべく漢方診療を行いながら,プライマリ・ケア,総合診療に役立つ漢方の考え方・使い方を発信しています。
〈専門医等〉
九州大学病院総合診療科特別教員(漢方外来担当)
日本東洋医学会漢方専門医・指導医・学術教育委員
日本内科学会総合内科専門医
日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療指導医
医学博士
〈主な著書〉
『ジェネラリスト・漢方―とっておきの漢方活用術』 medicina Vol.58 No.8,吉永 亮(編),医学書院,2021
『あつまれ!!飯塚漢方カンファレンス―漢方処方のプロセスがわかる』 吉永 亮(著),南山堂,2021
『本当はもっと効く!もっと使える!メジャー漢方薬―目からウロコの活用術』 Gノート増刊Vol.4 No.6,吉永 亮,樫尾明彦(編),羊土社,2017

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