本連載では2012年1月から2014年4月にかけて医学書院の電子ジャーナルサイト「MedicalFinder」に掲載されたエッセイ『内科医の道』を復刻掲載します。さまざま困難を乗り越えて道を切り拓いてきた先達たちが贈る熱いメッセージは,時を経てもその価値は変わりません。内科医人生の道しるべとなる珠玉のエッセイを堪能ください(注:断り書きがない場合,執筆内容,所属などは初出時のものです)
山中 克郎(執筆時:藤田保健衛生大学総合救急内科)
初出日:2012/01/06
私の高校時代はかなりすさんだ生活だった。高校2年生の時,校内で飲酒事件を起こし5日間の停学処分を受けた。母の流した悲しい涙が今でも思い出される。開業医の祖父に憧憬を抱いていたので,医師を目指す強い気持ちは持ち続けていたが,3年生の成績はかなりひどいものだった。教師からは医学部への進学は絶対に無理なので諦めるようにと言われたが,2年間の浪人生活の末なんとか医学部に滑りこむことができた。
医学部での成績も芳しくなく,ポリクリ(臨床実習)中に一人だけ内科教授室に呼びだされ「卒業試験の成績をみたが,国家試験の方は本当に大丈夫か」と教授から心配していただいた。病院見学でも研修医の先生から「そんなにやる気がないなら医局で寝てろ」と救急外来診療に同行を許されなかった苦い思い出がある。
しかし,卒業後,優れた臨床医に何人か出会い,良き臨床医を目指そうというモチベーションが次第に高まっていった。なかでも小嶋真一郎先生は私の憧れだった。小嶋先生は名古屋近郊にある300床の中規模病院で一人だけで心臓カテーテル術を行い,CPA(心肺停止)で来院した高齢者を歩いて退院させることが何度かあった。私は臨床能力の高い医師の底力に驚いてしまった。さらに,卒後15年目に青木眞先生の紹介でUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のTierney先生と出会い教えを受けた。問診と基本的診察の大切さ,幅広く内科を勉強することの素晴らしさを学び,人生は大きく変わった。