本連載では2012年1月から2014年4月にかけて医学書院の電子ジャーナルサイト「MedicalFinder」に掲載されたエッセイ『内科医の道』を復刻掲載します。さまざま困難を乗り越えて道を切り拓いてきた先達たちが贈る熱いメッセージは,時を経てもその価値は変わりません。内科医人生の道しるべとなる珠玉のエッセイを堪能ください(注:断り書きがない場合,執筆内容,所属などは初出時のものです)
勝俣 範之(執筆時:日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科)
初出日:2012/04/06
末期がん患者さんを題材にした『余命1ヶ月の花嫁』という映画が数年前,話題になったことは記憶にまだ新しいことと思います※。 あの映画を観て,とても残念だったのは,映画の中で医師が出てくることはほとんどなく,医師が「余命1ヶ月」と言い放つ冷たい医師像のみとしてしか描かれていなかったことです。
腫瘍内科医であるわれわれは,抗がん剤の専門家と称されますが,ともすると「患者を苦しめる冷たい医者」と誤解されてしまうことが多いのです。腫瘍内科医のプロフェッショナリズムとして大切なことは「エビデンスばかりをふりかざす冷たい医者ではなく,常に患者の味方であり,患者のためにどのような医療が適切なのかを真剣に考え実践する医者になること(『がん診療レジデントマニュアル 第5版』 序文より)」であると思います。腫瘍内科医が担当するのは,主に進行・再発期のがん患者さんであり,多くの場合には,治癒は望めません。抗がん剤を投与するのも,患者さんの生活の質を大切にしてこそ,抗がん剤の延命効果も意味あるものになってきます。生活の質を考えない抗がん剤治療は,それこそ「患者さんを苦しめる」だけになります。