第26回 患者さんの背負う荷物 
𠮷岡 成人(NTT東日本札幌病院 病院長)

本連載では2012年1月から2014年4月にかけて医学書院の電子ジャーナルサイト「MedicalFinder」に掲載されたエッセイ『内科医の道』を復刻掲載します。さまざま困難を乗り越えて道を切り拓いてきた先達たちが贈る熱いメッセージは,時を経てもその価値は変わりません。内科医人生の道しるべとなる珠玉のエッセイを堪能ください(注:断り書きがない場合,執筆内容,所属などは初出時のものです

𠮷岡 成人(執筆時:NTT東日本札幌病院内科診療部) 
初出日:2012/04/06

 

私が内科医としてのキャリアを積み始めたのはもう30年以上も前のことです。
1981年4月から聖路加国際病院の内科レジデントとして勤務を開始し,数週間後に,日野原重明先生からPOS(Problem Oriented System)に基づく診療記録の記載についてのレクチャーを受けました。今時の若者は見たことがないかもしれませんが,OHP(overhead projector)を用いた1時間ほどのレクチャーでした。今でも思い出すのは,1枚のOHPシートで,そこには風呂敷にくるんだ重そうな荷物を背負っている老婦人のイラストが描かれていました。「患者さんはいくつもの問題を抱えて病院に来る。でもね,医師は患者さんの問題を解決してあげて荷物を軽くするのではなく,逆に,診断名という荷物を与え,患者さんの重荷を増やしている…」と日野原先生はお話しされました。
私はそのとき初めて,医師の仕事は病気の診断や治療を行うだけなのではなく,病気を持つ人と向き合うことなのだと教えられました。とはいうものの,病気を適切に診断し,マネジメントする高い能力が基礎になければ,患者さんと向き合うという考えが砂上の楼閣にすぎないということも強く感じました。

 

続きを読むには
無料の会員登録 が必要です。

こちらの記事の内容はお役に立ちましたか?