第88回 押してもだめなら引いてみる 
目黒 周(慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科)

ブックマーク登録

本連載では2012年1月から2014年4月にかけて医学書院の電子ジャーナルサイト「MedicalFinder」に掲載されたエッセイ『内科医の道』を復刻掲載します。 さまざまな困難を乗り越えて道を切り拓いてきた先達たちが贈る熱いメッセージは,時を経てもその価値は変わりません。内科医人生の道しるべとなる珠玉のエッセイを堪能ください(注:断り書きがない場合,執筆内容,所属などは初出時のものです

目黒 周(執筆時:慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科)
初出日:2014/01/10

 

その患者さんのことは正直に言えばあまり得意ではありませんでした。小児期発症の1型糖尿病の女性で,うつ病の治療も他院で受けているとのことでした。以前通院していた病院に通うのが困難になったとか,そのようなことで私の勤めていた病院に移られてきたのだったと思います。血糖コントロールは決して良くはなく,私の外来に通院するようになってからも一向に改善しませんでした。折しもさまざまなアナログインスリンが発売されたこともあり,そうしたものを利用した治療提案もしてみましたが,一部はその患者さんには合わず,一部は受け入れていただけたものの血糖コントロール改善の打開策とはならず,その患者さんが診察室に入ってくるなり広がる独特のどんよりとした空気の前に,いつしか私も無力感を感じるようになっていました。 

続きを読むには
無料の会員登録 が必要です。

こちらの記事の内容はお役に立ちましたか?