森田 恵成
長崎大学医学部 2年生
森田恵成と申します。普段はDr. Winelight名義で音楽活動をしています。
今回は、私が作詞、作曲、編曲、歌唱、サウンドデザイン、ミキシング、マスタリングを全て手がけた楽曲「泡沫」で、医学生のアトリエ 2025に応募したいと思います。
まずは、今回このような素晴らしい機会を設けてくださった、金澤知大さんを始めとする「医学生のアトリエ」実行委員会の皆さんに、多大なる感謝を述べたいと思います。
さて、私の作品である「泡沫」について、少しだけ語らせてください。
私は一時期、フランスの現代思想に深く傾倒していました。レヴィナス、フーコー、デリダ。彼らが紡ぎ出した思考の海を泳ぎながら、その中に創作の可能性を模索していたのです。とりわけジャック・デリダの「他者性の泡立ち」という思想に、音楽の可能性を強く垣間見ることができました。
ジャック・デリダは、他者とは決して自己へと完全に回収され得ない、根本的な異質性を宿す存在だと述べました。世界はその他者性の絶え間ない「泡立ち」によって満たされている。すなわち、泡が生まれ、水面を漂い、やがて弾けて消えていくように、出会いもまた一瞬の光の中に輝いては、異質なままに溶けていくのです。そのような、ほんの少し厭世的な世界観が、この曲の原点にはあります。
それでも、たとえ完全には理解し合えないとしても、他者と重なり合える瞬間は確かにあります。モノクロームに沈む日々の中で、ふと光のように差し込んでくる他者の存在。デリダが示したように、他者性は不安定の源であると同時に、一期一会の奇跡を可能にする条件でもあります。もし世界がすべて同一であれば、出会いそのものが成立しない。「泡立ち」の中にこそ、かけがえのない時間は宿るのです。
この曲で伝えたかったのは、そのような世界への静かな肯定です。完全には分かり合えない、いつかは弾けてしまうかもしれない。それでも、大切な誰かと紡いだ日々の美しさは、泡立ちの中に消えるのではなく、泡立ちとともに永遠の形を帯びる。「泡沫」という題名には、そのような希望を込めました。
※イヤフォンまたはヘッドフォンで聴いていただけると嬉しいです。