執筆:伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
監修:岡本 耕(東京科学大学病院 感染症内科・感染制御部)
ここまで読んでいただいた読者の皆さん,お疲れさまでした。この連載もかなり長くなってしまい,最後には真菌や寄生虫の話題にまで触れていたので,「『抗菌薬ものがたり』というタイトルから逸脱していないか……?」と思われた方も多いと思います。実のところ,この連載の序盤にあたる抗菌薬のスペクトラムの話題だけでもある程度のところまでは実践に耐えると思います。しかし,感染症診療の内容は多岐にわたっており,全体を一通り学んではじめて個別の知識を深く理解できるという性質も帯びているのです。この連載では,最初に抗菌薬目線で感染症を俯瞰して,次に感染臓器目線で感染症を俯瞰して,最後に宿主因子目線で感染症を俯瞰することで,1つの現象をなるべく複数の目線から説明することを意識していました。そのせいで説明が重複した箇所も少なくなかったのですが,これによって当該箇所が重要であることが少しでも伝わっていればと思います。
この連載で想定していた読者は,6~10年目の医師です。医師5年目までの目標は,型通りの感染症診療ができることだと思っていて,例えば,抗菌薬を投与する前に血液培養を提出するとか,経験的抗菌薬としてセフトリアキソン(CTRX)など妥当なスペクトラムの抗菌薬を適切な用量で使うとか,そういった事柄が安定してできていれば十分でしょう。ただ,こういった脊髄反射的な診療を続けていると,診療自体は上手くいくかもしれませんが,だんだんと飽きてきます。発展性がないわけですね。マニュアル的な感染症診療から一歩踏み出して,考えながら感染症診療をやりたいという方もいらっしゃるのではと思うのです。そこで,「考えるヒント」のつもりで,この連載を綴り始めました。