平野啓一郎(小説家)
平島 修(徳洲会奄美ブロック総合診療研修センター 名瀬徳洲会病院内科)
※「総合診療」誌連動企画! 本対談は「総合診療」34巻11号(2024年11月号)pp1327-1335にダイジェスト版を掲載しています。本連載では3回に分けて完全版を掲載いたします。
本対談では,幅広いジャンルで深い人間ドラマや哲学的なテーマの作品を次々と世に送り出す第一線の小説家・平野啓一郎氏をお招きし,2024年11月公開映画の原作『本心』の内容をはじめ,さまざまな話を伺った。(平島 修)
(前編はこちら)
AIの登場と人間の医者に求められるコミュニケーションスキル
平野 死ぬかどうかという局面ではなく,日常的に患者として病院に行く時でも,医者が持っている知識量と,私を含め患者が持っている知識量とは圧倒的に違います。たとえば,どこかが痛い時,患者は体が何かの警告を発していると考えます。ただ,病院に行っても,なぜそこが痛いかが明確にならないことも多いです。患者は,医者であれば説明できるはずだと思っていますが。同じように説明できないことであっても,医者の言い方一つで感じ方が違います。痛みがあっても「何でもない」などと言われると,こちらは痛いと言っているのに,あの医者はなんだと感じることもあれば,ホッとすることもあります。そういった意味で,患者と医者の間では,コミュニケーションスキルの必要性が大きいです。
AIなどが登場し,イギリスなどでは風邪かどうか程度の診断であれば,インターネット上でできるようになっているという記事を読みました。日本でも,簡単な相談ができるシステムが作られていく可能性は高いでしょう。ただ,現在でもGoogleなどで自分の症状を検索をすると,大体,最も悪い病気が示され,ひどく不安になってしまう,ということが起きていますので,それも問題ですが。AIの登場によって,人間の医者に診てもらうことの意味が問い直される時に,コミュニケーション能力はやはり重視されるでしょうね。