ケース11(解説編)手掌足底に紅斑を生じる感染症

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執筆谷口 智宏(県立広島病院 総合診療科・感染症科部長) 
執筆協力米本 仁史(大和高田市立病院 感染症内科部長) 

(症例編はこちら

解説:鼠咬熱(そこうねつ)

歴史

鼠咬熱(rat-bite fever)は、ネズミなど小型げっ歯類の咬傷によって伝播する稀な全身性感染症である1)。世界中に分布し、Streptobacillus moniliformisまたはSpirillum minusによって引き起こされる1)。どちらもグラム陰性菌だが、後者は人工培地での培養が困難であるため、生化学的性状が詳しく分からず、分類上の位置が明らかでない2)。米国ではS. moniliformisが、アジアではS. minusが多く1,2)、両者は重なる部分が多いが、成書では分けて記載されているので本解説でも分けて述べる。

鼠咬熱は、インドで2000年以上前から知られており、その特徴は米国でも1839年に記録されていた1)。20世紀初頭、起因菌であるグラム陰性桿菌(当初はStreptothrix muris rattiと命名)が臨床材料から分離された1)。1925年に発熱・発疹・関節炎を呈した実験室作業員の血液培養からS. moniliformisが分離され、その形態が数珠状のネックレスに似ていることから名づけられた1)。1926年にマサチューセッツ州ハバーヒルにおける鼠咬熱の流行からHaverhillia multiformisという類似の菌が分離され、この菌およびS. muris rattiは、S. moniliformisと同一であることがのちに確認された1)。16S rRNA遺伝子配列解析により、S. moniliformisと表現型・臨床的に類似しているものの遺伝学的に異なるStreptobacillus種が動物から同定されている1)S. notomytisはスピニフェックスホッピングマウス(豪州生息の小型ネズミ)から、S. canisはイヌから、S. felisはネコから、S. rattiはラットから分離されている1)。このうち、S. notomytisS. felisは鼠咬熱の起因菌として報告されている1)S. hongkongensisもヒトから分離されたが、Pseudostreptobacillus hongkongensisに再分類された3)

S. minus による鼠咬熱は、本邦では鼠毒(そどく)と呼ばれている1)。1888年にCarterがラットより分離し、1915年に二木謙三先生が鼠咬熱の原因であることを証明された2)。当初はSpirocheta morsus murisまたはSporozoa murisと呼ばれていたが、1924年にS. minusと改名された1)

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