執筆:谷口 智宏(県立広島病院 総合診療科・感染症科部長)
執筆協力:米本 仁史(大和高田市立病院 感染症内科部長)
(症例編はこちら)
解説:急性HIV感染症
歴史
ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)による感染後6カ月以内の早期をHIV感染症の急性期と呼ぶ2)。諸外国では、急性感染(acute)とは、HIV抗原またはHIV RNAが陽性で、HIV抗体が陰性である時期のことを指し、最近の感染(recent)とは感染後6カ月以内を指すのが一般的であるが、日本のガイドラインでは、acuteとrecentをまとめて急性HIV感染症として扱われている2)。成書では、急性レトロウイルス症候群(acute retroviral syndrome)と記載され1)、かつては3番目に見つかったレトロウイルスとしてHTLV-IIIと呼称されたことに由来する。
HIV感染症は、1980年後半~1981年初頭にかけて、男性と性交渉を行う男性(men who have sex with men:MSM)の間で、カポジ肉腫や、Pneumocystis jirovecii、単純ヘルペス、サイトメガロウイルス(CMV)による日和見感染症の集団発生が起きたことで注目された1)。1982年、米国疾病予防管理センター(CDC)は、のちに後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)と呼ばれる疾患群について、臨床的、免疫学的、および疫学的な特徴に基づいて症例定義を策定した1)。AIDSに関する最初の症例報告の直後、異性間の注射薬物使用者、ハイチからの移民、血友病患者、輸血の受け手、およびアフリカ人において、さらなる症例が報告された1)。AIDSのリスクにさらされる集団が拡大するにつれ、臨床医は、全身性リンパ節腫脹、特発性血小板減少症、口腔カンジダ症、および全身性の消耗症候群など、AIDSに関連する臨床症状がさらに多様化していることに気づいた1)。1983~1984年にかけてHIVが初めて分離されたあと、HIV感染者を特定するための血清学的検査も開発されたことにより、HIV感染症の全容が明らかになっていった1)。 HIVの特定から40年以上が経過した現在、1980~1990年代に見られた臨床症状の多くは、高所得国では滅多に見られなくなっており、診断と治療の進歩に伴い、低・中所得国でも頻度は減少してきている1)。