
執筆:谷口 智也(東京都立多摩総合医療センター 救急・総合診療科)
なぜ制度と現場は噛み合わないのか——。厚生労働省に勤務したあと医学部に入り、現在は総合診療医として臨床に勤しむ著者が、行政の側から「制度」を見た経験と、「現場」で患者さんを診る医師としての実感に基づき、医療政策への現場の「なぜ?」にQ&Aで答えます。制度の“裏側”を知ることで、日頃の“モヤモヤ”を晴らし、ご自身の診療やキャリアに関わる問題として考えるきっかけにしていただけましたら幸いです。本連載の趣旨・アーカイブ、著者プロフィールはこちら。
あの時、あなたはロックダウンに賛成でしたか?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行した、あの“コロナ禍”からしばらくが経ちました。
しかし、次のパンデミックもいつか必ずやってきます。
その時、日本はどうするのか? 医療に携わる私たちは、どのような立場に立つのか?
今回は、今だからこそ振り返ることができる、日本がロックダウンをしなかった背景に立ち返ります。
COVID-19の波が来るたびに、現場は逼迫していました。
「なぜ日本はロックダウンをしないのか?」「欧米のように強い措置をとるべきだ」
そんな声を私は何度も耳にしました。
行政の内部も知る立場としては、当時の議論を複雑な想いで見ていました。
日本がロックダウンをしなかったのは、政府の弱腰や怠慢ではありません。
そこには、憲法、法律の構造、そして日本の感染症政策に刻まれた、ある歴史的背景がありました。
あなたは、その歴史的背景に思い当たるところがあるでしょうか?
医師が深く関わった、医療者であればぜひ知っておきたい歴史です。
そこで本稿では、「国民性」や「結果的に被害が小さかった」といった要素には深入りせず、憲法と法律、そしてその背後にある歴史的背景に焦点を当てます。
日本の対策は他国と比べ緩かったのか?
まず、各国が罰則つきのロックダウンを行ったのかを、表11)に示しました。非常時の政府の権限強化を可能にする「緊急事態条項」が憲法または法律で規定されているかも併せて示しました。
表1|COVID-19流行時の「罰則つきロックダウン」実施と「緊急事態条項」の有無
| 国 | 罰則つきロックダウンの実施 | 緊急事態条項の有無 |
| 米国 | ニューヨーク州など、実施した州もあり | ロックダウンの権限は州にあり |
| イタリア | あり | あり |
| フランス | あり | あり |
| 韓国 | なし(制度的には可能) | あり |
| 日本 | なし | なし |
(文献1を参考に筆者作成)
ここにあげた日本以外の国は、少なくとも緊急事態条項を持っており、罰則つきロックダウンを実施していたことがわかります。
続いて、各国のコロナ政策における「厳格度指数」を、図1に示しました2)。赤線が日本の指数です。たしかに日本は、全体に対応が緩やかだったことがわかります。