元来、補中益気湯(ほちゅうえっきとう;ツムラNo.41)は、金王朝の時代にモンゴル軍に攻撃され、長期間にわたって城を包囲され、食料不足による栄養状態の悪化と同時に感染症が流行した状況で、「弱った消化機能と体力を回復させることで感染症を治療する薬」として創作されました。このため、補中益気湯は感染症の治療薬としての側面をもっています。ステップ編では、筋トーヌスの低下に対する柴胡(さいこ)・升麻(しょうま)の升堤(しょうてい)作用を解説しましたが、柴胡・升麻には同時に解熱作用があります。そのため、補中益気湯は気虚(ききょ)による発熱(気虚発熱)に用いる漢方薬といわれます1)。細菌性肺炎や腎盂腎炎などの急性感染症の治療後、なんとなく活気がなく、微熱が続く場合はよい適応ですし、肉体的・精神的疲労による微熱を繰り返すような、心因性発熱や機能性高体温といわれる病態にも用いることができます2)。さらに、気虚の症状には「風邪をひきやすい」があり、「感染症に罹患しやすい」と解釈して、感染症の予防にも活用できます。ジャンプ編では、補中益気湯のさらなる活用として、次の一手、鑑別処方を解説します。
◆補中益気湯から次の一手
●気虚が高度である場合
疲労困憊で全身倦怠感が著しく、補中益気湯を投与しても全身倦怠感が残存する場合には気虚が高度であると考えます。その場合は、気虚の基本処方であり人参(にんじん)が含まれる四君子湯(しくんしとう;ツムラNo.75)や六君子湯(りっくんしとう;ツムラNo.43)を併用します。しかし、四君子湯や六君子湯を併用すると甘草(かんぞう)が重複してしまいます。そのため、偽アルドステロン症のリスクが高まることから、人参と同じ原料のオタネニンジンの根を蒸して乾燥させた生薬の粉末であるコウジン末も医療用医薬品として活用できます。コウジン末1回0.5~1.0gを補中益気湯と一緒に内服してもらうとよいでしょう。