【第2回】「コロナ後遺症」診療を持続可能にする3つのパラダイムシフト─個別性と向き合い続けるために(大塚文男)

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前回から続く)

執筆:大塚 文男
(岡山大学学術研究院医歯薬学域 総合内科学教授、岡山大学病院 総合内科・総合診療科長、検査部長)

 本稿では、日常診療において避けては通れない課題となった「コロナ後遺症(新型コロナウイルス感染症罹患後症状:post COVID-19 condition/Long COVID)」について、総合診療医が果たすべき役割と、その向き合い方について、私見を紹介します。

総合診療の真価が問われる「コロナ後遺症」診療 

 2021年2月、私たちは岡山大学病院に、総合病院としては全国で2番目となる「コロナ・アフターケア外来」を開設しました1)。当時、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を隔離病棟で診療していた当科の若手医師からの発案に始まり、急性期の治療後も回復できない症例の経験と、医局員の意見から採用したネーミングで外来設置に漕ぎ着けました。当時はコロナ後遺症の実態が不透明で、医療現場も手探りの状態でしたが、現在までに1,300例以上をチームで経験し、見えてきたことがあります2)。それは、コロナ後遺症こそ「総合診療医の総合性と専門性が発揮される領域」であるということです3

 コロナ後遺症の症状は、倦怠感をはじめ、ブレインフォグ、呼吸困難、動悸、味覚・嗅覚障害、さらには抑うつ状態まで、きわめて多岐にわたります4。頻度は少ないものの、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)へ移行するケースもあります5)。これらの症状のうち単一の臓器障害として説明がつくものは少なく、心理・社会的要因も複雑に絡み合っています。特定の専門科だけではこぼれ落ちてしまうこれらの症状を、丸ごと受け止める「器」こそが、私たち総合診療医の役割と感じています。


岡山大学病院「コロナ・アフターケア外来」では、
多彩なバックグラウンドや専門性を活かしたチーム医療を行っている。


5年間の対面診療で見えてきた症状の個人差と
予想外の「苦悩」や「心労」

 この5年間、私たちは一貫して対面診療を重視してきました。診察室で患者さんと向き合う中で痛感したのは、単なる身体的苦痛に留まらない、次のような社会的な深い孤立感や疎外感です。

患者の孤立: 検査値に異常が出ないため、周囲から「怠けている」「精神的なものだ」と心ない言葉をかけられる。
家族の疲弊: かつての快活さを失った家族をどう支えればよいかわからず、家庭内が暗く沈んでしまう。
社会との摩擦:会社や学校側が後遺症の病態を理解できず、復職・登校のプレッシャーが症状をさらに悪化させる。

 こうした「誰にもわかってもらえない」という絶望感こそが、患者さんを追い詰める最大の要因となっています。コロナ後遺症による休職・退職や、就労の変化に伴うメンタルヘルスの問題も生じています6)特にCOVID-19が5類感染症に移行後、周囲が普通の生活に戻った今、回復できていない患者さんの苦悩は、逆に増大していると感じます。


©Chiyo-chord

研究と臨床を循環させる「試行錯誤」の診療姿勢

 特効薬が未だ確立されていないなかで、私たちは「今の苦痛」を客観視し、解決の糸口を見出すための研究にも尽力してきました。

症状・病態の見える化のための研究
 主観的な「だるさ」や「霧がかかったような感覚」である自覚症状を、いかにして客観的な数値や指標として可視化(見える化)するか、私たちはコロナ後遺症のバイオマーカー探索や病態解明のための研究を継続しています7, 8)
 客観的なデータとして提示することは、患者さん自身の安心感につながるだけでなく、家族や職場への説明材料となり、孤立を防ぐ武器になるからです。
 一方、科学的視点では、コロナ後遺症研究がME/CFSの病態解明へとつながる可能性も秘めています。

臨床への即時還元
 国内外から日々発表されるフレッシュな研究成果を追いかけ、目の前の患者さんの病態に当てはめていく臨床は容易ではありませんが、自身の研究のデータと国内外の研究グループのデータを照合しながら、病態の把握に努めています。
 エビデンスが盤石ではないなかで、副作用のリスクとベネフィット、またコストや継続性も考慮して、患者さんと相談しながら治療法を試行錯誤することになります。患者さんから学んだ経験と研究成果を、臨床に還元する姿勢が必要です。

「治す」から「伴走する」への3つのパラダイムシフト

 コロナ後遺症診療において最も重要なのは、以下のように「因果関係の特定」だけに終始しないことです。

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