執筆・撮影:田中 夏実(みんなの北診療所 所長)
(前回よりつづく)
医学書ではない本を読むこと
スティグマ(がん患者、性的マイノリティ、身体・精神障害者、不登校など)に圧倒されている患者や、死が近い患者を、どう理解すればよいだろう? 外来や訪問診療の中でそう迷うとき、私はいくつかの読書体験に支えられてきた。
前回は、ハイデガーや木村敏を引いて、なぜ人は死を恐れるのか、犬は死を恐れているか、 「死」と向き合う二つの生き方について書いた。しかし、あまりに抽象的すぎるのではないか、とも懸念した。精神科医は別として、医師をはじめとする医療者はどちらかと言うと理系という人がほとんどだろう。ふだんから思想・哲学書を読んだり、人文系の読み物に親しんでいる人ならともかく、いきなりニーチェだとかヴァイツゼカーなどを挙げても、興味を持たれないのではないか。
それでも、人の死に向き合う医療者が哲学や思想、宗教を知ることは無駄ではなく、必ず診療に生きてくると思っているので、あえて振り切った。そこで今回は、もし興味を持った人がいれば読んでほしい本を紹介するブックガイドとする。わたし自身、哲学を専門としているわけでも、文献を網羅し精読しているわけでもない。内科医や家庭医が、日々の臨床で浮かぶぼんやりとした疑問や違和感を、そのままにせず考えるきっかけとなれば幸いである。