孤独は犬と癒せるか?―家庭医の“けものみち”

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毎月最終木曜更新孤独・孤立は今後最も深刻な“病い”となるかもしれません。高齢化に加え、家族構造の変化が進み、「孤独(社会的孤立)」が喫緊の課題になっています。特に高齢者の孤立は、介護や孤独死などの問題のみならず、早期死亡や脳卒中、冠動脈疾患や糖尿病など、さまざまな疾患の背景となることが報告されており1, 2, 3, 4)、まさに健康問題です。現代の家庭医やプライマリ・ケア医には、「孤独」という病いを“治療”する術を求められているのかもしれません
 そこで本連載では、その“伴侶”として「犬」にスポットを当てます。動物のなかでも犬は、介護予防や総死亡率低下の効果があることが、多数報告されています5,6,7)。猫や魚などその他ペットの効果もたびたび検証されてはいますが、有意な効果が認められているのは犬だけです。

 なぜ犬(だけ)なのか? 

 一方、日本は現在、空前のペットブームです。動物が、人間以上に「家族」的な役割を果たすようになってきました。そこで本連載では、「犬」を通して、社会的処方や家庭医療の可能性、ひいては「人間」について考えます。毎回、犬や人間の写真も併せて掲載していきます。「なぜ犬か?」「孤独は犬と癒せるか?」、ご一緒に考えてみていただけましたら幸いです。

※本連載は「アニマルセラピー」に関するものではありません。
※本連載の写真は、許諾を得て掲載しています。無断で転載・複製・配布することは法律で禁じられており、ご遠慮ください。

【文献】
1)Holt-Lunstad J, et al:Social relationships and mortality risk;a meta-analytic review. PLOS Med 7(7): e1000316, 2010 [PMID:20668659]
2)Wang F, et al:A systematic review and meta-analysis of 90 cohort studies of social isolation, loneliness and mortality. Nat Hum Behav 7(8):1307-1319, 2023 [PMID:37337095]
3)Valtorta NK, et al:Loneliness and social isolation as risk factors for coronary heart disease and stroke;systematic review and meta-analysis of longitudinal observational studies. Heart 102(13):1009-1016, 2016 [PMID:27091846]
4)Christiansen J, et al:Loneliness, Social Isolation, and Chronic Disease Outcomes. Ann Behav Med 55(3):203-215, 2021 [PMID:32865550]
5)Olsen C, et al:Effect of animal-assisted interventions on depression, agitation and quality of life in nursing home residents suffering from cognitive impairment or dementia: a cluster randomized controlled trial. Int J Geriatr Psychiatry 31(12):1312–1321, 2016 [PMID:26807956]
6)Lundqvist M, et al:Patient benefit of dog-assisted interventions in health care;a systematic review. BMC Complement Altern Med 17(1):358, 2017 [PMID:28693538]
7)太湯好子, 他:認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用性. 川崎医療福祉会誌 17(2):353–361, 2008


田中 夏実
生協北診療所 所長
1974年生まれ。いわゆるロスジェネ、団塊ジュニア世代。中沢新一『雪片曲線論』(青土社、1985)に衝撃を受け、文系の大学に進学。就活に身が入らず、卒業後は独学でウェブ制作の技術を学び、派遣社員、ベンチャー企業、システム開発会社などを経て独立した。リーマンショックの打撃を受け、人生を考え直す。信州大学医学部入学、市立大町総合病院で初期研修、2020年より生協浮間診療所・医療福祉生協連 家庭医療学開発センターにて総合診療および家庭医療の専門研修。2025年春より生協北診療所 所長に就任。個人note:https://note.com/nu_family