(前回から続く)
執筆:横田 雄也
岡山大学学術研究院医歯薬学域 瀬戸内(まるがめ)総合診療医学講座
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(コロナ後遺症)は、倦怠感をはじめとする多彩な症状が遷延し、さまざまな要因・背景が複雑に絡み合う未分化な健康問題です。明確な検査異常を伴わないことも多く、確立された治療法も乏しいことから、患者は「このまま一生治らないのではないか?」と不安を抱える一方、職場の人や家族から症状を理解されにくく、そして医療者も「どのように関わればよいのか?」と戸惑うことが少なくありません。
こうしたコロナ後遺症の診療において、「患者中心の医療」の実践モデルである「患者中心の医療の方法」は、有用な診療の枠組みの1つです1)。本稿では、その概要と、事例を通じて「患者中心の医療」の実践イメージを紹介します。
「患者中心の医療の方法」とは
「患者中心の医療(patient-centered medicine:PCM)」とは、患者を一人の「生活者」、一人の「人(person)」として捉え、その人の暮らしに目を向け、個別性を踏まえながら、患者の「主体」(その人の生き方)を支えようとする医療です1, 2)。ここで言う「主体(self)」とは、他の誰でもないその人自身のことを指しています。人はさまざまな場面で、何らかの選択を行います。その選択を行っていくその人そのものこそ、主体(self)です。また、人は皆、人生でさまざまな経験をし、その経験に意味づけを行いますが、それはその人の生き方に影響を与えます3)。そのため、「主体(self)」にはその人の生き方という意味も含まれていると、私は考えています。
PCMは、患者の主体を支えることによって、「その人らしく生きること」を支えようとします。生きることは選択の連続です。そして、人は選択をする時、その選択に少なからず責任をもつことになります。PCMでは、患者と家族、そして医療者が、互いのことを知り、それぞれが持ち合わせている力と責任を共有しながら協働して、患者がその人らしく生きていくための選択を行っていく、という医療のあり方なのです。
この理念を臨床で実践するための具体的な方法として、1980年代にStewartら1)が開発したのが「患者中心の医療の方法(patient-centered clinical method:PCCM)」です。PCCMは臨床研究に基づいて開発された実践モデルであり、次の4つのコンポーネントから構成されます1, 2)(図1)。

図1 患者中心の医療の方法
文献1, 2)の概念に基づき、筆者のイメージをChatGPT-5.5にて作成
❶健康・疾患・病いの経験を探る
生物医学的な「疾患(disease)」だけでなく、患者の「病い(illness)」の経験(感情・解釈・影響・期待)、患者の「健康(health)」(健康観や願望、人生の意味など)を探ることで、患者を病人としてではなく、一人の「人(person)」として捉える。
❷全人的に理解する
患者の置かれているコンテクスト(文脈、いわゆる「社会的背景」)を踏まえながら、第1コンポーネントの「健康」「疾患」「病い」も含めて、全人的に理解する。
❸共通の理解基盤を見出す
患者・家族と医療者がそれぞれの考えを共有しながら、取り組む問題を定義し、ゴールを設定し、それぞれが担う役割を同定することで、相互の意思決定を進めていく。
❹患者-医療者関係を強化していく
傾聴や共感、それに伴う癒し、継続的な関わり、力の共有といった実践を通じて、PCMの基盤となる患者-医療者関係を強化する。
これら4つのコンポーネントは、順番どおりに実践されるものではありません。診察の流れのなかで、それぞれのコンポーネントが互いに関連し合いながら、全体としてPCMが実践されることになります。次に、具体的な実践例を提示します。
事例:営業職のAさん(40代、男性)
仕事に邁進してきた営業職のAさん。生来健康で、妻と15歳・13歳の子どもとの4人暮らし。数カ月前にCOVID-19に罹患したあと、集中力の低下・頭痛・倦怠感が続くため、当院の「コロナ・アフターケア外来」(詳細は第2回)を受診しました。以下は、初診時のAさんと医師のやりとりです。
医師 今日はどのようなことで受診されましたか?
Aさん 数カ月前にコロナにかかってから、ずっと体がだるくて、頭痛も続いていて…。集中力も落ちて、営業先で相手の話が頭に入ってこないんです。まだまだ仕事を頑張っていきたいと思っていたところだったのに…。
医師 それはおつらいですね…。だるさや頭痛、集中力の低下が、コロナ感染後ずっと続いているのですね。
Aさん はい…。インターネットで調べてみたら「コロナ後遺症」についての記事が見つかって、そこに書かれてある症状をみたら、自分と全く同じで。自分も「コロナ後遺症」なんだと思うんです。
医師 おっしゃるとおり、「コロナ後遺症」の可能性は十分ありうると思います。念のため、ほかの病気が隠れていないか、合併していないかも含めて(詳細は第4回)、きちんと診させてくださいね。
Aさん はい、お願いします。
(医師が頭痛や集中力低下についての追加問診、身体診察を行う)
Aさん …正直、このまま以前のように働けなくなるのじゃないかと不安で。
医師 それはご不安ですよね。先ほど「まだまだ仕事を頑張っていきたい」とおっしゃっていたかと思いますが、Aさんにとって仕事はどういった存在なのでしょうか? 差し支えなければ、もう少し聞かせてもらえますか。