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【今回の書き手】
岩瀬 翔(前・青ヶ島診療所、多摩総合医療センター総合診療科/医師)
※本連載は書き手が交互に入れ替わる「往復書簡」のスタイルで進めていきます。詳細は連載趣旨をぜひご覧ください。
あやかさん、こんにちは。
知り合ってから5年くらいになりますが、手紙を書くのは初めてですね。
…とか言って、実はこの原稿は5回目の書き直し。
あやかさんから「いつもの翔くんの文章の良さが伝わってこない」という言葉をもらい、めちゃくちゃ悩みながら書き直してきました。
珍しく風のない青ヶ島の夜、スキマスイッチの『ボクノート』をリピート再生しながら、「この言葉、伝わってくれ...!」と願って書いています(笑)。
この連載では、これまで離島や都市部のコミュニティで実践してきたことを振り返りながら、「まだ言葉になっていないモヤモヤ」を言語化したいと思っています。
でも、私1人でそれをするのはとても難しい。そう感じたとき、あやかさんの顔が思い浮かび、「往復書簡」というアイデアが湧いてきたのです。
今回はまず、
私はなぜ離島で働くことに心惹かれたのか、
どのような経験を経て「モヤモヤ」を感じるようになったか、
を書いてみようと思います。
言葉を交わすなかで、この連載を通して考えていく大きなテーマも、一緒に見つけ出していきたいと思っています。
青ヶ島の風景。
こんな場所で感じてきた「モヤモヤ」をじっくり言語化したいと思います。
私が離島の医師を目指した原点は、2004年の「新潟県中越地震」です。そのとき、私は小学3年生でした。
新潟は幼少期を過ごした思い出深い場所です。親が転勤族で東京に引っ越した矢先に、地震が起こったのです。被災した友人たちが、理不尽に苦しめられる状況に、「なぜ?」という思いが湧き上がってきました。
高校生になって自治医科大学のオープンキャンパスを訪れた際には、「離島」には希望する医療すら届かない現実があると知りました。
日常にも「理不尽」はひそんでいる。医療という武器で、その理不尽に立ち向かいたい――。そう強く思ったのが“夢”の始まりでした。
2014年に自治医科大学に入ってからは、最新の医療機器や技術よりも「地域の暮らしと健康の関係」に関心が向き、健康の社会的決定要因(SDH)や社会的処方、ポジティヴヘルスなど、国内外のさまざまな事例を訪ねながら学んできました。
卒業後は、自ずと「総合診療」の道へと進むことになりました。都立多摩総合医療センターの専門研修プログラムに在籍しながら、2023年からは伊豆諸島の小さな島々を1年ごとに移っては働き、気づけば“夢”をほぼそのままに叶えることができていました。
ところが島を巡るほどに、高校生の頃に思い描いた医師像とは何かが違う…という、説明のつかないズレを感じるようになっていました。
島の夕日——。嬉しいことも、うまくいかないことも、
離島には立ち止まって考えられる時間がある。
ズレを感じるようになったきっかけの1つは、「医学知識や医療の常識を押しつけてしまった」経験でした。
外来で「認知症の薬には認知機能の改善効果があまりない」と何気なく口にしたとき、
「俺たちがどんな思いでこの薬に頼っているか、わかっているのか」 と、ご家族から怒りをぶつけられたのです。
離島では、このように患者さんやご家族の強い感情が迫ってくる場面が何度かありました。最初は、自分もつらく、心がざわつき、相手に対しても複雑な感情を抱きました。
しかし、時が経つにつれ、「都会なら医師を選べるけれど、島には逃げ場がない。だからこそ、言わざるをえなかったのだ」と気づかされました。
そのときの私は「裸の王様」だったのかもしれない、と思います。
医学知識を蓄え、臨床経験を積み、自信をまとえばまとうほど、患者さんの背景にある人生に思いを馳せることを忘れていた。立派な衣服(医学知識)を着ているつもりで、実は一番大切な「背景への敬意」という衣服を欠いていたのだ、と。
こうした目に見える経験以外にも、知らず知らずのうちに職場内や地域内で人を傷つけてしまっていたことがもっとあると思います。
地域の歴史やSDHを勉強していながら、目の前の1人ひとりの社会的背景や感情を受け止めきれていなかった。
その気づきは、正直なところ、まっすぐ見たくないものでした。
「自分の医療には何かが足りない。このままでは、理不尽を解決するどころか、誰の幸せもつくれない」
そんな思いが胸に重く残り、なんとか向き合わなければ…と思うなかで、本連載の機会を得て、自分自身と向き合うための言葉を探し始めました。
火山島は海底から測ると数千メートルになるものも多い。
人間の関係性も、見えているものの下には、もっとたくさんの大事なことが隠れているのかも。
今は、医学やコミュニティに関する知識の問題ではなく、もっと深いところに答えがあるんじゃないか、と考え始めています。
たとえ患者さんの背景を完全には理解できなくても、私自身の姿勢がもっとまっすぐに患者さんに向いていたら、医師としての肩書に寄りかからず、相手の背景に敬意を払えるのではないか。
知識の多寡ではなく、私自身の内面の姿勢こそが、患者さんとよりよい選択をするための土台になるのではないか、と思い始めました。
私が働いてきた地域には、幸い「王様は裸だよ」と正直に言ってくれる人がいたり、権威という衣服を脱がざるを得なかったりする場がありました。
でも、すべての地域がそうとは限りませんし、そのような地域にいても、気づかないまま経験を通り過ぎてしまう医療者がたくさんいると思います。
じゃあ、どうしたらよいのか?
そのまま通り過ぎてしまって、本当によいのだろうか?
こんな漠然とした問いですが、哲学対話やアートの視点も交えて地域を見つめてきたあやかさんとなら、ゆっくり言葉にできるんじゃないかと思っています。
キレイじゃなくたっていい。少しずつでいい。
手紙を書いては消して考えるなかで、「誰かのためのお利口さんの文章」はやめて、「私自身を救うための文章」を書こうと吹っ切ることができました。
この感覚を形にすることで、私が救われ、もしかしたら読んでいる誰かも救われるんじゃないかと思うから、ちょっと怖いけれど勇気を出して自分自身と言葉に向き合っていきます。
「自分は裸だ」と認めて、カッコつけるのをやめたら、ちょっと楽になりました。
でもまだまだ肩の力が入ってると思うので、またカツを入れてください(笑)。
返信を楽しみにしています。
岩瀬 翔
『総合診療』2025年6月号(Vol.35 No.6)
特集「シマから学ぶ、プライマリ・ケアの未来―いざ、素晴らしき離島医療の世界へ」
編集=金子 惇・岩瀬 翔
みなさんは「離島医療」にどんなイメージを持っているでしょうか? 「24時間1人でなんでも対応」「島に骨を埋める」「Dr.コトー」などでしょうか?
もちろん、そうした側面も離島医療の大事な一部です。しかし、人口が減少し、自治体の消滅が懸念される現在、離島は人口減少・高齢化の最前線に立っています。医療も地域の資源の1つであり、これまで以上に「地域の中で医療はどうあるべきか?」が問われています。
そのような状況だからこそ、実際さまざまな先進的な取り組みが、離島医療の現場から生まれているのです。

岩瀬 翔(いわせ かける)
1996年に茨城県で生まれ、転勤族の家庭で新潟・東京と移り住む。2020年に自治医科大学医学部(東京都枠)を卒業。在学中から地域医療に関心をもち、日本各地や途上国を訪れる。また英国やオランダに留学し、社会的処方やポジティブヘルスが生まれた現場で学んだ。都立広尾病院での初期研修中に、渋谷区内でコロナ禍から再生するまちづくりに携わる。2022年より都立多摩総合医療センター 総合診療科プログラムに所属し、2023年から式根島・神津島・青ヶ島の診療所長を歴任。診療所の外での住民との関わりを大切にし、コミュニティナース活動やダンスクラブなどを島の人々と共に立ち上げた。京都芸術大学大学院にて、医療や社会学、芸術などの他分野との融合を目指してデザイン思考を学び、2025年に修了(MFA)。『総合診療』2025年6月号特集「シマから学ぶ、プライマリ・ケアの未来—いざ、素晴らしき離島医療の世界へ」を編集。共著に『みんなの社会的処方—人のつながりで元気になれる地域をつくる』(学芸出版社、2024)。
note:https://note.com/kkr_maru
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福井彩香(ふくい あやか)
1991年に滋賀県に生まれ、同県の山間部で育つ。2016年に立命館大学薬学部(6年制)を卒業後、京都大学医学部附属病院薬剤部に入職、呼吸器外科・脳神経外科の病棟および治療薬物モニタリング(TDM)室の薬剤師として臨床と研究に携わる。その後、医療系IT企業にキャリアチェンジし、並行して町会活動や、都市・建築分野の知人・友人らと複数のプロジェクトを行う。臨床・ビジネス・地域での経験を活かすべく、2023年9月より一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会に参画。同善病院・同善会クリニック(東京都台東区)を中心に全国で、病院と地域が融合し支え合いの循環が生まれる場づくりに取り組んでいる。プライベートでは、都内の空き家を活用し、芸術・建築・出版などに関わる人々とセミパブリックな住居・共同書庫や勉強会を運営。2025年には、『万博を解体する』(合同会社 studio TRUE)に論考「『いのち輝く』とはどういうことか?―健康とケアの現場から考える、社会へのまなざし」を寄稿した。分野を横断しながらケアと生活について考えることをライフワークにしている。
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