【第6回】正しさ vs 暮らし
―患者さんは可哀想?③(福井彩香)

ブックマーク登録


※「この連載をフォロー」すると、マイページにて最新回の配信をご確認いただけます(右上のアイコンをワンクリック!)。

【今回の書き手】
福井彩香(同善病院・同善会クリニック、一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会/コミュニティプランナー、薬剤師)

前回の「手紙」はこちら

※本連載は書き手が交互に入れ替わる「往復書簡」のスタイルで進めていきます。詳細は連載趣旨をぜひご覧ください。

お返事ありがとう。
翔くんの経験や考えの変化を聞けて、とても嬉しく思います。
先日、友人から聞いた長野県上田市での取り組みがとても素敵だったので、今日はその話ができればと思います。きっと、翔くんから投げかけてもらった問いにも重なる部分がある気がしています。

 

同地域で障害福祉事業を営むNPO法人リベルテは、障害のある人が地域社会から見えなくなってしまうことへの危機感から、郊外に機能を集約させた大規模施設を設けるのではなく、まちなかに拠点を分散させる体制をとっているそうです。また、映画館やゲストハウスや本屋が、子どもたちや社会的困難がある方の居場所やシェルター、あるいは就労支援の場として機能しており、日常の中で人々が自然と互いを気にかける関係が生まれている、と話してくれました。

 

なぜ上田市では、「自然と互いを気にかける関係」ができたのでしょうか?
これには、翔くんが前回の手紙で書いてくれたインドでの体験、

 

・障害のある方との、ボランティアや病院実習などの前置きや役割のない突然の出会いに際して、「正しい振る舞い方」を探そうとして、緊張や焦りを感じたこと
・その緊張を障害のあるお子さんやご家族は気に留めず、とても自然に迎え入れてくれたこと
・そこから、自分が「理不尽」だと思っているその状況は、本当にその人にとっても、同じ意味で「理不尽」なのだろうか、と自分の夢に違和感を抱き始めたこと

がヒントになるのではないかと思いました。

上田市では、リベルテの取り組みに加え、「うえだ子どもシネマクラブ」「やどかりハウス」「のきした仕事事業」などさまざまな支え合いの取り組みが生まれています1)

このように、まちのなかに事業所が点在し、映画館や本屋という誰もが使う場所が、障害を含む社会的困難がある人の居場所にもなっている。

私たちの日々の暮らしの中に、困難を抱える人々と自然に出会う機会があり、知らず知らずのうちに皆でケアを分配している、と言えるのではないでしょうか。翔くんの言葉を借りると、「前置きのない出会い」に溢れた状況であり、立場の異なる人々が同時にケアに関わっているがゆえに、唯一の「正しい振る舞い方」が成立しにくい状況とも言えると思います。

「正しさ」の背景にある専門知識はとても重要であり、私たちを助けてくれるものです。

けれど、「正しさ」だけでは越えられないバイアスや偏見という壁もあるのではないでしょうか。
では、その壁を乗り越えるきっかけになるものとは何なのでしょうか?

日常はもちろん、旅先や出張先でも、できる限りその土地の「銭湯」に足を運ぶようにしています。
病院で出会えば「患者さん」かもしれない。
けれど、暮らしの中で出会うからこその関係性もあるのではないかと思っています。 

続きを読むには
無料の会員登録 が必要です。

こちらの記事の内容はお役に立ちましたか?