「家庭⇄職場」で磨く“育てる力”
―忙しい医師が明日から試せる1アクション

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「育てる」に悩みは尽きない ――。 
後輩指導のスキルを育児に適用できると思ったら、勝手が違った!?
家庭での育児で得た気づきを後輩指導に活かし職場での学びを育児に還元する。
そんな試行錯誤のなかで見えてきた、著者の考える「育てる力」とは?
忙しい医師が明日から試せる1アクションも提示。


執筆:伊藤 貴康(岐阜大学医学部附属病院 医師育成推進センター 助教)

 医師は、いつの間にか「育てる」ことを求められます。
 私は、研修医時代から心肺蘇生の講習会ICLS(Immediate Cardiac Life Support)に携わり、気づけば医療者教育の現場で多くのことを学んできました。職場では研修医も後輩医師もメディカルスタッフも指導してきました。大学病院のスタッフになってからは、研修医教育・学生教育・シミュレーション教育にも関わっています。
 そこで身につけてきた成人教育の視点は、育児にも適用できるのではないか。そう考えて、家庭で実践してみました。

 でも、まぁうまくいかないものです。 

 職場では丸く収まる協力関係も、家庭ではそう簡単にはいきません。家族だからこそ感情が出やすく、教育者として自分に足りないものを突きつけられます。
 子どもは正しさを伝えるだけでは動きません。そして、我が子であっても、自分とは別の意思をもつ1人の他者です。親の思いどおりに育てる対象ではなく、考え方も感じ方も異なる存在として向き合うことが、育てることの出発点なのだと感じるようになりました。

 この気づきは、職場での教育にも返ってきました。研修医や後輩医師もまた、1人ひとりが異なる背景や価値観をもち、学びに向かう意欲や不安を感じるポイントもさまざまです。正しさを押しつけるのではなく、相手に届く関わり方を選ぶこと。相手の変化を観ること。すぐに結果を求めず、待つこと。必要なところでは任せること。そして、目の前の出来事だけでなく、その人が置かれている状況全体を見て関わること。こうした力は、人を育てるときに普遍的に必要な教育力なのだと実感しました。そして、子どもを育て、研修医や後輩を育てているようで、逆に自分自身も育てられていることに気づきました。 
 もちろん、家庭と職場は同じではなく、育児の経験をそのまま後輩指導に当てはめることはできません。それでも、「人が育つ場面」には共通する視点があります。仕事と育児・家庭の両立に悩んでいる医師には、職場と家庭は時間を奪い合うものではなく、教育力や成長といった観点から、相乗効果を生み出せる場だという点もお伝えしたいと思います。

 本連載では、家庭と職場という、同じようで異なる2つの教育の場を行き来しながら、筆者自身が試行錯誤し、問い直し、磨いてきた「育てる力」を考えていきます。家庭での立場や子育て経験を問わず、職場や家庭で誰かの成長に関わる忙しい医師に向けて、明日から試せる1アクションを“型”としてお届けします。

【コンテンツ(予定)
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第1回 手伝う人から、育てる主体者へ 2026年8月10日公開
第2回 時間がない医師ほど、関わり方の“型”が必要である-3つの型とは?
第3回 「動けない」のは、本人のせいだけですか?

 



伊藤 貴康(いとう たかやす) 
岐阜大学医学部附属病院 医師育成推進センター 助教
2007年、三重大学医学部卒業。腎臓内科医として診療に携わる一方、卒前・卒後教育を担当。研修医時代からICLS指導に関わり、現在はICLS・JMECCを含むシミュレーション教育、医学生への仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を用いた臨床推論教育、研修医の初期臨床研修全般、医学教育における指導者育成に継続して携わっている。医療教育の現場で培った成人教育の視点を、自身の育児経験と往復させながら、家庭と職場に共通する「人を育てる力」を考え続けている。著書に『指導がきっと楽しくなる! ICLS指導読本』(へるす出版、2024)。『内科救急診療指針2022』(日本内科学会専門医制度審議会 救急委員会 編、総合医学社、2022)では分担執筆を担当。