第23回 小さな実験

ブックマーク登録


明日宮もなか( X:@monaka_asumiya)


前回はこちらから)
(サバレジ連動連載「臨床現場の仕事術」にて杏奈となぎさが飛鳥先生にカンファレンス改革のための仕事術「デザインシンキング」を教えてもらう回はこちら
から)

「おや、もうこんな時間だ。そろそろ終わりましょうか」
グランドカンファレンスの終わりを告げる司会者の声に、会議室に集まっていた10人ほどの医師が立ち上がり、重い足取りで出口へ向かった。
まだ一週間が始まったばかりだというのに、医師たちの顔には疲労がにじんでいた。


「うへぇ、疲れたぁ…」 
カンファレンスの最前列で孤軍奮闘していた杏奈は、他の医師が出ていったのを見届けた瞬間、ぐにゃりと机に崩れ落ちた。立ち上がれずにぐったりしている杏奈のもとへ、なぎさが最後列から寄ってくる。
「お疲れ様」
なぎさの涼しげな声に対し、杏奈は顔だけ横に向け,伸ばした腕に頬をのせて上目遣いで見上げた。
「なぎさはいいよねえ、自分だけ後ろで聞いてさぁ!」
「飛鳥先生の指示なので。でも後ろの席だからこそ,いろいろと気づくことがあったよ」
なぎさは,観察結果をメモしたノートを開いた。

 

「後ろからだと,発表者じゃなくて,聞いている人の背中がよく見えるの」
ページを指でなぞりながら,なぎさが続ける。
「研修医が少ない日は、各内科にちょっとずついる専攻医の先生たちも当てられるでしょ? 指名された瞬間に,肩がびくっと上がる人。当てられないように,そっと目を伏せる人…いろいろな反応があった。それと,途中からスマホを触る人が増えていた」


「えーっ,それってサボりじゃん?」
杏奈は不満そうな表情で続ける。
「何人かはそうかもだけど、多くの先生たちはたぶん違う。チラッと見えた感じでは、指導医が新しい病名を言うたびにAIに聞いていたみたい」
なぎさも考え込む。

 

そこへ,廊下を床ですりながら歩く足音が近づいてきた。研修医1年目のセリナだ。
「あーっ! こっちにもサボりがいた!」
杏奈が勢いよく上体を起こし、セリナを指さしながら声を上げた。
「えー、別にいいじゃん。そもそもカンファで勉強って効率悪いし。ネットで十分じゃん?」
あっけらかんと言い残し、セリナは去っていった。
「この令和っ子め…!」
杏奈が頬を膨らませながら精一杯の憎まれ口をたたいた。
「……でも、いまの言葉,大事な気がする」
セリナの背中を見送りながら,なぎさが小さくつぶやいた。
「ねぇ杏奈、いちど、飛鳥先生と相談しよう!」 

~~~~~~~~~~~~

(次回へつづく)
(杏奈となぎさが飛鳥先生にカンファレンス改革のための仕事術「STP分析とペルソナ」を教えてもらう回はこちらから、2026年7月1日公開)


杏奈と仲間の青春研修生活を描く「サバレジ」,次回もお楽しみに!
飛鳥の指導で成長する杏奈の様子は天野雅之先生の「臨床現場の仕事術」をチェック!!(毎月1回水曜日更新)



こちらの記事の内容はお役に立ちましたか?