番外編 YouTubeチャンネル「バイキン屋。」リニューアル記念インタビュー

連載「抗菌薬ものがたり」をご執筆の伊東 完先生(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)が開設されているYouTubeチャンネル「バイキン屋。」の主要動画「抗菌薬物語」が,このたび「新・抗菌薬ものがたり」としてリニューアルされました。
そこで,今回は「抗菌薬ものがたり」番外編として,伊東先生にYouTubeチャンネル「バイキン屋。」についてお話を伺いました(聞き手:ジェネラリストNAVI編集室)。

伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)

 

 ——YouTubeチャンネル「バイキン屋。」を開設されていますが,それはどのようなきっかけからですか? 

端的に言えば,医療現場における自分自身のアイデンティティーを確立したかったからですね。もともとは筑波大学附属病院病院総合内科の現場リーダー,ある意味では診療科と不可分の存在として働いていたのですが,新しいスキルを身につけなければ診療科を成長させられないという危機感から,現在の東京医科大学茨城医療センター総合診療科に赴任してスキルを磨くことにしました。同時に,そろそろ自分の医療界における立ち位置を決める必要があると考えるようになって「バイキン屋。」を始めました。
 

 

ところで,超高齢社会で余裕のない現代日本ですが,医療現場には無駄が多い気がしています。急性期病院の喧騒のなかで,いつしか「適切な診断に基づいて,なるべく簡潔な医療を行うようにしたい」という気持ちが大きくなっていきました。そんなときに出逢ったのが,医師3年目に研究を始めたdiagnostic stewardshipという学問分野です。検査前確率を意識して適切に検査や治療を行い,医療資源の適正利用を目指すのですが,これこそ自分がこの世でやるべき仕事ではないかなと感じました。そして,その前提として正しい専門知識の普及が大切だということになって,「バイキン屋。」ではひたすら感染症のマニアックな話題ばかりを配信するに至ったわけです。マニアックすぎてあまり再生されていませんが(笑)。

 

——どのような方に視聴してほしいと考えて動画を作成されているのですか? 

後期研修医の先生方ですね。初期研修医の先生方にも見ていただいているようなのですが,扱っている内容が高度なので意外でした。動画のネタは旬の感染症論文から仕入れていることが多く,必ず出典を示すように心がけています。大抵は『Clinical Infectious Diseases』をネタにしていますが,個人的にこのような各診療分野の一流誌は『New England Journal of Medicine』などの超一流誌よりも面白いです。そして,学問を楽しんでいる姿勢を公開することで,同年代の学問仲間に自分を見つけてほしい願望が,ちょっとだけあります。実は昔からぼっち族なのです(笑)。

 

 

——今回,「新・抗菌薬ものがたり」として動画をリニューアルされましたが,その狙いを教えてください。 

自分と同年代の学問仲間にアプローチしたいということで,リニューアルにあたってはなるべく「タイパ」を意識するようにしました。コスト・パフォーマンスのタイム版ですね。例えば,口ごもっている時間などは容赦なくカット。テンポを良くして動画の尺を短くすることで,目移りの早い若手医師でもストレスなく見られるように仕上げているつもりです。字幕を撮影後でなく撮影前につけているのも,もたもたしないようにするための工夫です。

 

YouTuberを始めたての頃は,性能の良いマイクを用意していなかったり,撮影スキルが未熟だったりと,とても満足できるコンテンツを作ることができませんでした。仮に中身が良くても,見た目が駄目では正しい知識を普及させることはできません。適切な知識を伝達するためには,派手でセンセーショナルなコンテンツに勝てるだけの魅力が必要です。そのような目でリニューアル前の「抗菌薬物語」を見ていると,やはり野暮ったくてリニューアルしたくなったのです。医学書院さんの「ジェネラリストNAVI」のもとで「抗菌薬ものがたり」の連載が始まったのもひとつのきっかけでした。

 

——「新・抗菌薬ものがたり」の動画は,本サイト連載「抗菌薬ものがたり」とはどのような関係になりますか? 

YouTubeの「新・抗菌薬ものがたり」は,ざっくりとポイントを拾っていただくためのコンテンツです。正座してご視聴いただくことは全く想定しておらず,むしろ寝転がって軽く聞き流していただくためのものです。ただ,ざっくりと解説していると,どうしても不正確な表現にならざるをえない箇所が出てきます。特に感染症診療の場合は,病原体が耐性を獲得するなどで知識も変わっていくので難しい問題です。そこで,「ジェネラリストNAVI」で連載させていただいている「抗菌薬ものがたり」のほうでは,周辺知識の注釈を充実させるように努めています(変にマニアックなのは悪しからず)。したがって,動画も連載も扱っている内容はおおむね同じで,コンテンツ番号も合わせるようにしているのですが,媒体ごとに知識の深さに変化をつけているとご理解いただければと思います。


——今後の両コンテンツの公開予定を教えてください。 

YouTube「新・抗菌薬ものがたり」も,「ジェネラリストNAVI」の「抗菌薬ものがたり」も,基本的には週1回の更新を目標にしています。少々ハイペースですが,コンスタントに情報提供できればと思っています。最初は抗菌薬の全体像を全26回で俯瞰するのを目標にしており,その後は抗菌薬のスペクトラムの知識を応用して臓器別感染症の知識へと繋げていきたいと考えています。臓器別感染症の後は……アイデアはあるのですが,未定です。せっかくなので100回とか,煩悩の数とかを目指したい気持ちはあります。実際,お隣の天野雅之先生の連載「臨床現場の仕事術」には「3分で読める! MBA×総合診療の100エッセンス」という副題がついていますし,同じくらいの長寿コンテンツにはしたいですね。

 

「抗菌薬ものがたり──エピソードで学ぶ感染症診療の歩きかた記事一覧
(2023年8月15日時点)
第 1 回 まずはβラクタム系だけを勉強するべし
第 2 回 細菌はGPC・GNR・嫌気性菌の3グループだけをまず覚えるべし
第 3 回 ペニシリンGといえば,ブドウ球菌以外のグラム陽性球菌
第 4 回 ペニシリンGはグラム陰性桿菌が苦手
第 5 回 アンピシリンは大腸菌制圧への第一歩
第 6 回 すべてがうまくいくかにみえたアンピシリン・スルバクタム
第 7 回 ようやくGNRを克服か!? ピペラシリン・タゾバクタム
第 8 回 あっさりとブドウ球菌をカバーするセファゾリン(第一世代セフェム系)
第 9 回 大腸菌ともそこそこ戦えるセファゾリン(第一世代セフェム系)
第10回 幅広いGPC・GNRをカバーするセフトリアキソン(第三世代セフェム系)
第11回 院内感染症までカバーできるセフェピム(第四世代セフェム系)
第12回 ペニシリン系とセフェム系の総復習!
第13回 セフェム系としては規格外なセフメタゾール
第14回 余力があれば知っておきたいセフタジジム&アズトレオナム
第15回 使いどころをわきまえたいカルバペネム系
第16回 経口抗菌薬の基本を押さえよう
第17回 ST合剤は第三世代セフェム系に匹敵する
第18回 キノロン系は第四世代セフェム系の貴重な代役だ!
第19回 疑似ピペラシリン・タゾバクタムをつくりたい

 

感染症の扱う内容は多岐にわたっており,知識ひとつを取り出しても,さまざまな角度から眺めることで理解を深めることができるようになっています。そのときの感動を視聴者・読者の皆様にもぜひ追体験していただきたい。願わくは,感染症診療の広大な世界をひとつの大きな物語として披露したいと思っています。視聴者・読者の皆様,今後ともよろしくお願いいたします!

 

そして,この場を借りて,本連載をご監修いただいている岡本 耕先生(東京大学医学部附属病院感染症内科)に感謝申し上げます。

 


伊東 完
東京医科大学茨城医療センター総合診療科臨床助教
2017年東京大学医学部卒業。茨城県立中央病院初期研修医,東京大学附属病院感染症内科勤務後,2020年筑波大学附属病院病院総合内科の立ち上げに関わる。2022年より現職。2023年からはDr.’s Prime社での戦略・学術アドバイザーも務める。IDWeek 2020 International Investigator Award受賞。第1回Dr.’s Prime Academia総選挙1位受賞。「2040年の日本でも持続可能な医療とは?」を問い続けながらstewardship活動に基づく医療現場づくりを目標に邁進する一方で,幼い頃の恩師の教え「学問は一生の友」を心に刻み,YouTubeチャンネル「バイキン屋。」で視聴者とともに学び続けている。 

 

 

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