誤診ケースの裏側──システム要因の分析と対策

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編集:徳田 安春(群星沖縄臨床研修センター長)

【毎週水曜更新】誤診は「個人」の知識や経験の不足に起因するのか? 否,診断エラーは「システム要因」に帰するところが多いことが明らかとなっています1, 2)。たとえば、内科的診断エラーの65%は「システム要因」に3),なかでも研修中の医師の診断エラーは75%が「システム要因」に起因するとされます4)。また,救急外来での診断エラーの65%は「チームワーク不良」に,41%は「システム欠落」に一部起因するともされています5)。個人の「認知バイアス」さえ,環境や状況などシステム要因の影響を色濃く受けています。
残念ながら,「誤診」はありふれたものであり,米国では10件中1件が誤診であるとも報告されています1)そのため,体系的な「excellence in diagnosis」6)あるいは「diagnostic excellence(診断エクセレンス)」7)が,いま求められています。
そもそも「診断」とは複雑なプロセスであり8),正しい診断にたどり着くまでの過程では,いくつかの鑑別診断仮説を念頭に診療を進めることが通例だからです。たとえ「個人」の知識や経験が不足していても,できるだけ速やかに正しい診断にたどりつける「システム」を構築する必要があります。そこで本連載では,実際の「エラー症例」を提示し,「システム要因」に注目しながら分析・検証し,今後の対策を考えます。全国各地の患者さんがより安全・安心な医療を受けることができ,また若手医師も安全・安心な研修を受けられることを願ってやみません。

※本連載で取り上げる症例は,リアルケースをベースとしつつ,個人情報等に配慮し,また教育的意義を深めるために再構成したものです。

1)National Academy of Medicine:Improving diagnosis in healthcare. National Academies Press. 2015
2)Croskerry P, et al. 2017/綿貫 聡, 徳田安春(監訳):「誤診」はなくせるのか?―実践知としての診断エラー学の世界.医学書院, 2019
3)Graber ML, et al:Diagnostic error in internal medicine. Arch Intern Med 165(13):1493-1499, 2005[PMID: 16009864]
4)Singh H, et al:Medical errors involving trainees: a study of closed malpractice claims from 5 insurers. Arch Intern Med 167(19):2030-2036, 2007[PMID: 17954795]
5)Cosby KS, et al:Characteristics of patient care management problems identified in emergency department morbidity and mortality investigations during 15 years. Ann Emerg Med 51(3):251-761, 2008[PMID: 17933430]
6)The Leapfrog Group:Recognizing Excellence in Diagnosis;Recommended Practices for Hospitals, July 2024 Update. The Leapfrog Group, 2024
7)徳田安春:診断エクセレンス(1) 診断の影を照らす. 医療界を読み解く【識者の眼】, 日本医事新報 5122, 2022
8)綿貫 聡, 徳田安春:診断エラーが起こる背景. 医学界新聞 3310: 4, 2019

 

【目次&配信予定】
エラー症例呼吸困難ケース(徳田安春)
1)初期研修医の診断:2025年1月29日(水)配信
2)2度目の誤診とシステム・状況要因:2025年2月5日(水)配信
3)なぜ「〇〇」を見逃したか:2025年2月12日(水)配信 (※〇〇の正診断は配信時に公表)
4)システム・状況要因✖認知要因:2025年2月19日(水)配信
5)「Quality M&M」の意義と活用法:2025年2月26日(水)配信

 


編集:徳田 安春
群星沖縄臨床研修センター長,JAMEP理事,東京財団政策研究所研究主幹
1988年に琉球大学医学部卒業後,沖縄県立中部病院にて研修,同病院総合内科,聖路加国際病院一般内科,筑波大学水戸地域医療教育センター総合診療科教授,地域医療機能推進機構本部顧問などを経て,2017年より群星沖縄臨床研修センター長。『Journal of Hospital General Medicine』編集長。
著書(編書・訳書)に『「誤診」はなくせるのか?―実践知としての診断エラー学の世界』(監訳,医学書院,2019),『症候別“見逃してはならない疾患”の除外ポイントーThe 診断エラー学』(編集,医学書院,2016)ほか多数。米国で研究が進む「診断エラー学」にいち早く着目し,日本への普及に尽力し続けている。「Cognitive error as the most frequent contributory factor in cases of medical injury;a study on verdict's judgment among closed claims in Japan」(J Hosp Med,2011)など関連論文も多数。『医学界新聞』での2019年の連載「ケースでわかる診断エラー学」はこちら